2008年06月16日

医療の現在 風邪への対処法

前回のEBM(証拠に基ずく医療)についてです。これは当たり前のことを大袈裟に言っるようでもありますが、例えば、「風邪の時は風呂に入らない方がいいですよ」と医師が指導したとして、本当にそうなの?という素朴な疑問があります。お祖母ちゃんからの言い伝えみたにも思える訳です。風邪のポイントは自然に治ることです。多くの体調の不良は自然に治る訳ですが、風邪は急性に、そこそこの症状が出現する、印象的なエピソードなので、なんらかの対応をせざるを得ません。対応の一つとして、風邪が治るまで風呂に入らないというのがあって、そこそこに流布しています。
でも、本当だろうか。はっきりさせようとしたら、風邪を引いて風呂に入った場合と風呂に入らなかった場合を比較して、直るまでの期間を比較するしかありません。この為には、統計学が必要です。“有意差”という概念があって、偶然とは言えない確率で風呂に入ると風邪が治るまでの期間が長いということになると、「風邪の時は風呂に入らない方が良い」ということについて、証拠があがったということになります。つまり、医師が「証拠がありますよ」と自信を持って、入浴の禁止を指導できるという訳です。
「風邪なんて、いずれ治るのだから、どうでもいいじゃないか」という声も聞こえそうですが、例えば、余命、6ヶ月の末期がんで、苦痛を取ることに専念するホスピスケアと或る抗がん剤の使用とを比較して、その抗がん剤を使用すると本当に余命が延びるのか(有意差をもって)という問題になると、切実で、証拠があれば、その抗がん剤使用に踏み切ろうと背中を押す、重要な要因になる可能性があります。
「面倒だな、ようするに医者は、うまいことやってくれればいいのだよ」という意見もあるでしょうが、おまかせ医療が成り立たなくなった現在、医療側も手の内を開示して、理解を求めざるを得ません。手の内を覗き込むと、意外と“治療”は確固としたものとは言えず、とりあえず“介入”という中立的な用語で、実際に医療行為を実行して、事後に介入群と非介入群を比較して、統計的な有意差の有無を検定し、決着をつけようという話しなのです。
次回はEBMについてもう少し追加します。



Posted by 杉謙一 at 06:07│Comments(0)
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